秘密の地図を描こう

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 キラの顔を見に来るのは楽しい。しかし、訪問するのに緊張を強いられるのは、同居人のせいだろう。
「久しぶりだね」
 こうやって出迎えられるのは、どうしてもなれない。
「お邪魔します」
 近いうちに、後二人にも同じ気持ちになってもらおう。そう思いながら玄関をくぐる。
「適当に座っていてくれるかな? 今、キラを起こしてくる」
「体調を崩したのですか?」
 即座にこう問いかけた。
「ミゲルから何かを頼まれたらしくてね。寝不足だっただけだよ」
 そういえば、何か不具合が出ていたらしい。それも、蒼穹に解決しなければいけないものが、とは聞いていた。
 しかし、それをキラに任せるのは違うのではないだろうか。
「彼の隊にレイがいるからだろうね」
 こうなるとわかっていれば手を回したのだが、と彼はため息をつく。
「だが、彼が適任だと言うことも事実だしね」
 現状では仕方があるまい、と彼は言う。
「私は表に出ない方がいいだろうし」
 いろいろな意味で、と彼は続けた。その言葉に込められた意味も理由もわかっている。
「まぁ、今はキラ君の世話だけでも手一杯だしね」
 これは冗談だろうか。
「仕方がありません。キラですから」
「確かに」
 そう言い残すと、彼は奥へと向かう。それを見送ると、ニコルはソファーに腰を下ろした。
「でも、ミゲルには釘を刺しておくべきでしょうね」
 あまりキラにあれこれ押しつけないように、とため息をつく。
「と言うより、どうして僕ではないのでしょうね」
 後でじっくりと聞かせてもらおう、と続ける。
 そのときだ。
「慌てると転ぶよ」
 あきれたようなラウの声が耳に届く。同時に、何かが倒れるような音が周囲に響いた。
「……注意する間もなかったね」
「すみません……」
 ため息とともに口にされた言葉に、キラの謝罪が続けられる。
 そこまではいい。 「いい加減にしないと、抱いて運ぶよ?」
「それはいいです!」
「残念だね」
 だが、その後に続けられた会話はなんなのか。
「僕たちでもあそこまで甘やかしませんでしたよね?」
 小さな声でそう呟く。
「それにしても、隊長があのようなキャラだとは思っていませんでした」
 喜々としてキラをかまっているように感じられる。昔はもっと排他的な人物だと思っていたのに、と心の中だけで続けた。
 それとも、自分が知らない間に彼の存在が変わるような何かがあったのだろうか。
「ごめんね、ニコル。待たせた?」
 こんなことを考えていると、キラが苦笑とともに姿を見せた。
「いえ、気にしないでください」
 むしろ楽しい、とこっそりと付け加える。
「ですが、無理は禁物ですよ?」
 さらにこう付け加えれば、キラは視線を彷徨わせ始めた。
「ミゲルには釘を刺しておきますから」
 いいですね、と強めに告げる。
「そうだね。そうしてもらえるとありがたいかな」
 さらにお茶の用意をしてきたらしいラウまでもが同意をした。
「……わかりました」
 彼には頭が上がらないのか、キラは小さな声でそう告げる。
「なら、この話は終わりにしましょう」
 ニコルはそう言って微笑む。
「そういえば知っていますか? アスランとカガリさんが今度、アーモリーワンに来るかもしれないそうですよ」
 この言葉に、キラが驚いたような表情を作る。
「まぁ、あちらもそろそろ追い詰められているだろうからね」
 ラウがそう言ってうなずく。
「だから、地球軍も動き出しているのかもしれないよ」
 この言葉にキラが深いため息をついた。
「その話もちゃんと聞かせていただいた方がいいですね」
 またハッキングですか? と続ければキラは小さくうなずいてみせる。
「また、戦争が始まるのかな」
 キラが小さな声でこう呟く。だが、それに言葉を返すことができなかった。

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最遊釈厄伝